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ここで見たこと

絵描きのなんでもない日々です。トウキョー周辺。

「孤独との対話・A」

 
おや、また来たのか。
今夜は何の用だい?
心淋しかった?
認めて欲しかった?
不安を舐めあう相手を捜しに?
お前はいつもそうだ。
 

蛇の腑の中の蛙、
見捨てられた老羊、
忘れ去られた空想の輩にして、
砂漠に渇き去ぬ民がお前だ。
 
お前のいちばんの災厄は、お前がすべてであることだ。
お前は風のすべて、水の一滴、枯れゆく一葉で、堕胎の際の存在しない最期の呼吸だ。
夢みる人々のなかでただ一人の不眠、焼け落ちた都市で最後に目を開けている者、何者も寄らぬ高山の花の蕾。
倉庫の最奥で朽ちる箱、秘境の片隅で密やかに着実に失われる種、記憶の底にうずもり瓦解する約束もお前だ。
明けない夜、沈まない太陽、遠くで破砕した星、呑み込んだ涙、訪ねられることのない部屋、その総てがお前だ。
分かち合えないあらゆるものに添いながらも、何者からも省みられることのないのがお前の災厄。
すべてのものでありながら、実体を持たないのがお前の災禍。
概念から独りで、永劫進化も退化もしないのがお前の最悪で、
語る口を持たないことがお前の災難だ。
 
今夜もなんと不憫なのだろうね。
臆病な獅子、群からはぐれたカモメ、涸れさる泉、受け取り主の居ない手紙、焼き去られた楽譜。
同情を浴びる総てでありながら、元凶のごとく扱われるお前。
数少ない、お前そのものに気がつくものは、お前を苦と思わぬが故に、お前が見えなくなってゆく。
 
ほんとうに、なんと哀れなのだろうね。
 
お前がどんなに添うたところで、
お前が見えない者たちには、
熱を奪い、
涙を啜り、
目を眩ませる作用しか起こさず、ただ疎まれるだけなのだから。
 
 
心淋しくてここへ来たのか?
認めて欲しいがために?
不安さえ惑わせ、舐めさる舌も凍えつかせるお前が。
 
ほんとうに、
あんまり不遇に過ぎるから、熱いお茶の一杯、舌を焼く酒杯でも出したいほどだ。
誰もお前を労わず、誰もお前に気付かないのだから。
だが、そら、
私もいつまでお前を見ていられるか。
お前の個を認めた途端に、お前はお前であることを失うのだから。
 
ああ、もう、見えない。
 
「孤独」。
どうかその無機質の道行きに、いつか終わりが訪れんことを。
誰かがほんのひと瞬きでも、お前に気付いてくれんことを。
 

 
(2012/10/22 「孤独との対話・A」)