ここで見たこと

絵描きのなんでもない日々です。トウキョー周辺。

常温のアクエリアスと、ぬるい夜

 
 
少し前のこと。
 
バイト先で。
3、4年ほどまえに来店したという老夫婦。都心からデート帰りだという。
他に来客はなく、常連さんになってくれると良いなあ、という下心を秘めつつ会話。
 
『それこそ、ご飯が食べられることだって、ありがたいわよねえ』
『あなたの親御さんが誰かに良くしていたから、巡り巡ってあなたも良くされるのよ』
 
どんな流れだったか、文章もうろ覚えなのだけど、そんなことを言われた。
泣いてしまった。
 
そのとき私はとてつもなく焦っていて、いろんなことにいっぱいで、頭も上げれず視界は狭く、持てる以上に手を伸ばそうとしていた。
 
接客はエンターテイメントだと思っていた。
こちらがあちらを楽しませているのだと。
日常の中に降る非日常。明るく愉快な店員。前後の処理なく楽しめる食事。気分で選べる内装と立地。
 
泣いてしまった。
驕りで、不遜で、背伸びで、慢心だ。
気付いてしまった。様々のことが認知以上であること。当たり前がないこと。気付かないうちに、どれだけ伸ばされた手があるか。どれだけそれが、見えていないのか。いまなおきっと、見えない支えのあること。一方の譲与でないこと。与える以上にもらっていたこと。笑顔は対象なく発生しないこと。
 
 
 
 
…とまあ、そんなことがありまして、バイト中にぽろぽろぽろぽろ泣いてしまったわけですが、おかげで憑き物が落ちたようにまったりしております最近。
こうあることも必要。
決してせかせかぎらぎらしたひとになりたいわけじゃない、その見極め。
 
 
amazarashiを聴いています。
桃や茸を食べています。
twitter住人です。
親知らずがあるようです。
お誘いをちらほらいただきます。
向島からお友達が訪ねてきます。
お祭りで絵の力を買われます。
部屋には孔雀の羽があります。
すてきな友人がたくさんいます。
すべきこともわかっています。
いしいしんじの書いた物語を 久しぶりに読みました。
行きたい場所がたくさんあります。
帰り道にカップアイスを食べました。
真っ暗な駐車場で見上げた空に 星が走りました。
完成していない絵があります。
お気に入りの浴衣を着ることができます。
 
 

ずっとずっとしあわせだなあと思う。
いったいいつと対比しているのか、対比ではなく感想なのか、判らないけど、かつてないほど闊達にわたしなんじゃないか、と思う。



描きかけの絵は、11月のデザインフェスタでお披露目する予定で、仕上がりまでまだまだまだまだかかりそう。

これが(彼が、君が、このこが、彼女が)、私から何かを奪ったと、言わしめる絵になれば良いと思う。
生涯の中でも特殊なものになれば良いと思う。
私から時間を、思考を、嗜好も、葛藤も、問答も、愉悦も、苦境をも、連れ去って行く絵になれば良いと思う。
描きあがったときに 空っぽの私であるような。
がらんどうの部屋。タロットの愚者。未知の無知。0である1。
そうしたら、見も知らぬ次があるだろうから。
ぜんぶがうしなわれることなんて きっとないと知ってるから、奪い尽くせるだけ 奪い去ってくれれば良いと思う。
 
そこにしか この×××の活路は無い。